秋田地方裁判所 昭和41年(ワ)56号 判決 1967年10月09日
主文
原告らの請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
(双方の申立)
一、(一) 原告らの求めた裁判
(1) 主位的請求
(イ) 被告会社の昭和四〇年一二月二九日の臨時株主総会における会社解散、監査役および法定清算人選任の各決議は無効であることを確認する。
(ロ) 訴訟費用は被告会社の負担とする。
(2) 予備的請求
(イ) 主位的請求(イ)項記載の各決議はこれを取消す。
(ロ) 主位的請求(ロ)項に同じ。
(二) 被告の求めた裁判
主位的請求および予備的請求に対していずれも主文同旨。
(請求原因)
二、(一) 主位的請求原因
(1) 原告らはいずれも被告会社の株主である。
(2) 被告会社は昭和四〇年一二月二九日午前一〇時ごろから秋田県南秋田郡五城目町五城目信用金庫会議室において臨時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を開催し、右総会においては、会社解散、監査役および法定清算人選任の各決議(以下「本件株主総会決議」という。)がなされた。
(3) しかしながら、本件株主総会決議は、次のとおり決議の内容において法令又は定款に違反する瑕疵があるから無効である。すなわち
(イ) 本件株主総会は、被告会社の定款第一八条第二項に「株主総会は法令に別段の定めある場合をのぞき取締役会の決議に基づき社長これを招集する」と規定するのに拘わらず、取締役会の決議に基づかないで招集された違法があり、仮りに取締役会決議に基づくとしても、右取締役会決議は定足数を欠き無効のものであるから、それに基く本件株主総会の招集は違法である。
(ロ) 本件株主総会の招集通知は、商法上、会日より二週間前に発しなければならないのに、昭和四〇年一二月一七日以降に発送されたものであるから、右法定期間には少くとも三日以上不足する違法がある。
(ハ) 本件株主総会には僅かに株主数名しか出席していないのであるから、本件株主総会決議は、委任状による出席株主数を加えても、商法所定の発行済株式総数の過半数に当る株式を有する株主が出席しその議決権の三分の二以上の多数をもつて決議すべき特別決議の要件を充足していない違法がある。
(ニ) 会社解散は企業の営業活動の終熄を意味し、各株主にとつて最も関心の多いものであるから、それを本件株主総会の議案とするのであれば、その通知書にその提案理由を具体的に明記して各株主に知らしめ、あるいは右通知以前においてもその提案理由を具体的且つ合理的な方法で各株主に知らしめる義務があるのに、被告会社は事前に何らその通知をすることなく、一方的に会社解散の議案を本件株主総会に上程し、一般株主に対し正に寝耳に水の驚きを与えたもので著しく公正を欠く違法がある。
(ホ) 本件株主総会は、昭和四〇年の暮も押迫つた一二月二九日という年末繁忙の時を選び、しかも遠隔地の株主の出席を殊更困難ならしめて開催されたもので、著しく公正を欠くのみならず、公序良俗にも反する違法がある。
(4) よつて、原告は本件株主総会決議の無効確認を求める。
(二) 予備的請求の原因
(1) 主位的請求原因第(1)、第(2)項に同じ。
(2) 本件株主総会決議には、その総会招集の手続又はその決議の方法において主位的請求原因第(3)項(イ)から(ホ)記載の如き法令および定款に違反する瑕疵がある。
(3) よつて、原告は本件株主総会決議の取消を求める。
(被告の答弁)
三、(一) 主位的請求原因第(1)、第(2)項(予備的請求請求原因第(1)項)の各事実は認める。
(二) 主位的請求原因第(3)項(予備的請求原因第(2)項)の事実のうち
(1) (イ)の事実中被告会社の定款第一八条第二項の規定は認める。その余の事実は争う。本件株主総会招集に関する取締役会の決議は昭和四〇年一二月一四日行われた。
(2) (ロ)の事実は争う。本件株主総会招集の通知は同年同月一五日に発送されたもので、原告主張の法定の二週間に一日欠けることになるが、かくの如き軽微な瑕疵は本件株主総会の無効又は取消事由とはならない。
(3) (ハ)の事実は否認する。被告会社の発行済株式総数は二一〇、二〇〇株であるところ、本件株主総会当日議決に参加した株主の持株総数は一一九、八六〇株で、本件株主総会決議は右株主の満株一致により可決されたものである。
(4) (ニ)の事実は争う。被告会社の本件株主総会招集通知には議題として「会社解散の件」と明示されていたものであり、また、被告会社は毎年貸借対照表を送付し、あるいは年々の定時株主総会において会計報告をしているのであるから、会社解散は各株主に予期されていた筈である。
(5) (ホ)の事実は争う。
(被告の抗弁)
四、仮りに本件株主総会決議に原告主張の如き瑕疵があつたとしても、右瑕疵は次の事由により右決議の結果に影響を及ぼすものではないから、原告の請求は棄却されるべきである。すなわち、
被告会社は昭和三四年一〇月二二日資本金五、〇〇〇万円をもつて設立されたものであるが、設立以来製品サーモ・エレメントの売上は極めて微々たるものである反面、工場設備投資、技術者に対する人件費、研究費の支出が厖大を極めるといつた状態で、ために、被告会社の負債は年々増大し、昭和四〇年九月三〇日現在負債総額は、繰越欠損金九〇、〇一四、二六三円、当期欠損金二二、〇九〇、七〇九円合計金一一二、一〇四、九七二円の多きに達した。従つて、被告会社の各株主は設立以来一度も株式配当を受けたことがなかつた。被告会社はかかる経営状態にありながらも、設立以来昭和三九年度まで毎年各株主に決算書を送付したり、定期株主総会を開いて株主に会社の経営状態を報告してきたのであるが、昭和四〇年には完全に被告会社の機能は停止状態に至り、近々解散せざるを得ないことになつたので、被告会社としては、でき得れば一一月の定時株主総会において解散案件を審議したい考えであつた。ところが、当時被告会社には従業員一名もおらず、資金は全然ないという有様で、決算書の作成等の事務手続さえ進行できず、一一月の定時株主総会開催は不可能となつた。そこで、被告会社としては定時株主総会に代るべき臨時株主総会を開いて会社解散案件を審議すべく決算書の作成を急いだところようやく同年一二月一〇日ごろこれが整つたので同月一四日取締役会を開いた結果、会社解散のため臨時株主総会を招集する旨の取締役会決議がなされた。
右取締役会席上、臨事株主総会招集の通知は法律上会日の二週間前に発しなければならないので会日を一二月三〇日にしなければならないことが論議されたが、出席取締役一同は常識として一二月三〇日、三一日の総会は避けるべきであり、解散というよくない事柄を新年早々に持越すことは望ましくなく、被告会社が早晩解散することは株主全員が予期していることであり、不服を述べる株主がいる筈がないとして、会日を一二月二九日にすべきことが出席取締役全員一致で決議された。本件株主総会は以上の如き事情のもとに開催され、本件株主総会決議がなされたものであり、その決議の効力を争うのは全株主を通じて僅かに原告らのみであるから再度臨時株主総会を開催したとしても会社解散等の議案が再度可決されることは明らかである。しかも、右本件株主総会決議の効力を争う原告西村自身、本件株主総会に出席して会社解散案件に賛同しているのであるから、かかる場合には、異議権を放棄したものとして禁反言の原則上今さら本件株主総会決議の効力を争い得ないものと解すべきであるから、いずれにしても、原告の本訴請求は棄却を免れないものである。
(原告の被告の抗弁に対する答弁)
五、被告会社がその主張の日にその主張の資本金をもつて設立されたこと、被告会社各株主が株式配当を受けたことがないこと、昭和四〇年一一月には定時株主総会が開催されなかつた事実は認める。昭和四〇年度の決算内容および昭和四〇年一一月に定時株主総会を開催できなかつた事実は不知である。その余の事実は否認する。すなわち、被告会社が厖大な欠損を生ずるに至つた原因はもともと確たる成算もないのに新製品サーモ・エレメントなるものを生産販売すると称して誇大な宣伝をもつて株主を募集した挙句に生産に着手もせず、放慢な経理処理をし、莫大な負債を負うに至つたからであり、本件株主総会決議に不服のあるものは原告らのみではなく、多くの株主にとつてはそれは寝耳に水の驚きである。また、原告西村は本件株主総会に出席し、他の数名の株主と共に極力会社解散の反対を唱えたものであるから、禁反言の原則の適用はない。
(証拠)(省略)
理由
(主位的請求に対する判断)
一、原告が、主位的請求原因において本件株主総会決議の瑕疵として主張する事由のうち、本件株主総会招集が取締役会の決議を経てないこと、無効の取締役会決議に基づき招集されたこと、右総会招集の通知が会日の二週間前に発せられなかつたこと、右総会招集通知書に会社解散の件につき具体的に記載しなかつたこと、右通知以前に各株主に対し会社解散につき具体的に知らしめなかつたこと、右総会の会日の時期が妥当でないということの各事由はいずれも本件株主総会招集の手続に関するものであり、また、本件株主総会決議は法定特別決議の要件を充足していないとの点は本件株主総会決議の方法に関するもので、いずれも決議の内容に関するものではない。商法第二五二条によれば、およそ、株主総会決議の無効事由となるものは決議の内容が法令又は定款に違反する場合でなければならないから、右原告の各主張は主張それ自体失当に帰し、その余の争点を判断するまでもなく原告の請求は理由がない。
(予備的請求に対する判断)
二、(一) 本件株主総会決議等
原告らが被告会社の株主であること、および被告会社は昭和四〇年一二月二九日午前一〇時ごろから秋田県南秋田郡五城目町五城目信用金庫会議室において臨時株主総会を開催し、右総会において、本件株主総会決議がなされたことは、いずれも当事者間に争いがない。
(二) 本件株主総会決議に関する法令又は定款違反の事実の有無
(1) まず原告は、「本件株主総会は定款第一八条第二項に規定する取締役会の決議に基づかないものである」旨主張し、これに対して被告は、「昭和四〇年一二月一四日開かれた取締役会においてその決議がなされた」旨抗争するので、以下判断する。
被告会社の定款第一八条第二項に、「株主総会は法令に別段の定ある場合をのぞき取締役会の決議に基づき社長これを招集する」と規定されていることは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一、第九号証、乙第一、第五号証、証人渡辺時治の証言(但し後記認定に反する部分を除く。)および被告代表者本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。
被告会社の取締役の員数は、昭和三八年一二月四日就任した渡辺時治、美濃部吉享の二名、昭和三九年一一月三〇日重任した加賀谷力司、広嶋忠比古、〓兵吉、三浦盛典、工藤英章の五名ならびに同日就任した伊藤卓治、伊藤常雄の二名の合計九名であり、被告会社の定款第二五条には、「取締役の任期は二年とする。但し、取締役の任期がその任期中の最終の決算期の定時株主総会前に満了したるときは、その定時株主総会の終結に至るまでその任期を伸長する」旨、および、同第一八条第一項には、「定時株主総会を開くべき時期は毎年一一月とする」なる規定があるところ、昭和四〇年一二月一五日午後一時三〇分ごろより五城目町加賀谷木材株式会社社長室において前叙取締役のうち、加賀谷力司、美濃部吉享、渡辺時治、伊藤卓治の四名の出席のもとに被告会社の取締役会(以下「本件取締役会」という)が開催され、右取締役会において被告会社の決算内容を検討した結果、被告会社の再建は不可能で解散以外途がないとの結論に達し、同月二九日会社解散のための臨時株主総会を招集して株主に解散を諮ることに出席取締役全員の意見が一致し、その旨決議(以下「本件取締役会決議」という)がなされた。右認定に反する証人渡辺時治の「本件取締役会決議は定時株主総会招集に関する決議であつた」旨の証言部分はにわかに信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
右認定事実によれば、本件株主総会は取締役会の決議に基づき招集されたことが明らかであるので、次に右取締役会決議の効力につき考えると、前叙取締役の任期の伸長に関する被告会社の定款第二五条の定時株主総会終結まで任期が伸長されるとの意味は、通常の場合を予想して所定の時期に招集せられる定時株主総会の終了までと解し、任期中の最終の定時株主総会が所定の期間内に開かれなかつた場合には、その期間を超えては伸長されないと解するのが相当である。けだし、若し所定の期間内に定時株主総会が開催されなかつた場合、何時までも取締役の任期が伸長されるものとすれば、商法第二五六条第一項において特に取締役の任期を最長二年と法定した趣旨が没却されるからである。これを本件についてみるに、前叙認定によれば被告会社の定時株主総会は毎年一一月に開催すべきところ、後述の如く昭和四〇年度には右所定の期間内に定時株主総会が開催されなかつたことは当事者間に争いない事実であるから、昭和三八年一二月四日被告会社の取締役に就任した渡辺時治、同美濃部吉享の二名は昭和四〇年一二月四日任期満了していることになる。従つて、本件取締役会当時の被告会社の取締役総数は加賀谷力司外六名であり、本件取締役会決議は出席取締役二名によつてなされたことになつて定足数を欠き、無効であるから、本件株主総会は瑕疵ある取締役会の決議に基き招集された違法がある。
(2) 次に、原告は、「本件株主総会招集の通知は法定の二週間前に発せられていない。少くとも三日不足する。」旨主張し被告は、「一日しか不足しない」旨抗争するので、判断するに、証人渡辺時治の証言および被告代表者本人尋問の結果を総合すると、前叙取締役会において本件株主総会の招集が決議されたので、それから被告会社は招集通知の手続を始め、右取締役会より一、二日遅れて招集通知を発送したこと、五城目町に住んでいた株主渡辺時治は一二月一七日ごろ本件株主総会招集通知を受領したことの各事実が認められ、右認定に反する証人新谷国太郎の「一二月二〇日ごろ本件株主総会招集通知を受領した」旨の証言および、
「新潟に住む西村義雄の前株主長谷川が本件株主総会招集通知を受領したのは一二月二二日ごろと思う」旨の原告西村義雄本人尋問の結果はいずれもにわかに信用できなく、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実を総合すると、被告会社は遅くとも一二月一七日には本件株主総会招集通知を発していることが推認される。してみると、本件株主総会招集の通知は同月一四日に発しなければならないから法定期間に三日欠けることになり、本件株主総会招集手続には瑕疵がある。
(3) 次に、原告は、「本件株主総会決議には定足数を欠く違法がある」旨主張し、被告はこれを否認するので判断するに、成立につき争いのない甲第七号証、被告本人尋問の結果から成立の認められる乙第三号証、弁論の全趣旨から成立の認められる乙第八号証、証人新谷国太郎(但し後記認定に反する部分は除く)、同渡辺時治の各証言、および被告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。
被告会社の発行済株式総数は二一〇、二〇〇株で、すべて一株金五〇〇円の額面株式である。本件株主総会当日出席した株主総数は委任状による出席株主総数二五名を含めて四一名で、その持株総数は一〇九、八六〇株(このうち、委任状出席株主の持株総数は四三、六三〇株)であつた。ところが、本件株主総会第一号議案「会社解散の件」に関する決議前に途中渡辺時治(持株数二、〇〇〇)、宮田清三郎(持株数二〇〇)畠山元太郎(持株数三〇〇)、渡辺小太郎(持株数二〇〇)の四名が退場し、右四名を除く前叙出席株主により第一号議案「会社解散の件」、第二号議案「監査役選任の件」第三号議案「法定清算人選任の件」が審理され、いずれも満場一致により可決された。右認定に反する証人新谷国太郎の証言および原告西村義雄本人尋問の結果はいずれもにわかに信用できず。他に右認定を左右する証拠はない。
右認定によれば、本件株主総会決議時における株主数は途中退場者を除き三七名(このうち委任状出席株主二五名を含む。)で、その持株総数は一〇七、二六〇株であるから、これは被告会社の発行済株式総数の過半数に当り、右出席株主の全員一致にて本件株主総会決議がなされたのであるから右決議には原告主張の如き違法はない。
(4) 次に原告は、「会社解散の如き重大案件は株主の最大関心事であるから本件株主総会招集通知に提案理由を具体的記載して各株主に知らせるべきであるのに被告会社はこれを怠つた」旨主張するのに対して、被告は「本件株主総会通知には会社解散の件と明記したのであるからそれで足りる」旨抗争するので判断するに、成立に争いのない甲第二号証によると本件株主総会招集通知には「目的たる事項」として、「第一号議案会社解散の件」と明記されている事実が認められる。およそ、株主総会招集通知に「会議の目的たる事項」の記載が要求されるのは、各株主に総会の目的、および、総会において表決されるべきものが何であるかを予め了知させ、その議決権を行うにつき十分に準備をさせることが目的なのであり、右にいう「会議の目的たる事項」とは詳細な決議内容の記載をさしたものではなく、単に総会の目的たる議事項目を称するに過ぎないものと解するのが相当であるところ、これを本件についてみるに、右認定事実によれば本件株主総会招集通知に「会社解散の件」と明記されていて、総会の議事項目が記載されているのであるから、「会議の目的たる事項」の記載としてはこれで十分と言うべく、これによつて被告会社の株主は本件株主総会において被告会社の解散の件が審議されることは予めわかつているのであるから、それに対する準備は可能であり、従つて本件株主総会招集の通知には原告主張の如き違法はない。
原告らはさらに、「本件株主総会招集通知前にも各株主に会社解散に関し、提案理由を具体的、且つ合理的方法で知らせるべきであるのにこれを怠つた違法がある」旨主張するが法令又は被告会社の定款上本件株主総会召集通知以前の会社解散に関する通知義務を定めた規定はないから右通知を欠いても何ら違法とはならない。
(5) 最後に、原告は「本件株主総会は年末繁忙の時で開催時期が著しく不公正である」と主張するので判断するに、年末はほとんどの株主にとつて多忙であることは公知の事実であり、かかる時期に「会社解散」という重大案件を審議すべき株主総会を開催したことが妥当を欠くものであることは争えないが、これをもつて本件株主総会招集の手続が著しく公正を欠いたものというにはあたらない。
三、被告の抗弁に対する判断
前段説示の如く本件株主総会決議には本件株主総会が無効の取締役会決議に基づくものであること、および本件株主総会招集通知の法定期間の不足の瑕疵があるのであるが、被告は、右瑕疵は本件株主総会決議の結果に影響を及ぼすものではないから右瑕疵は本件株主総会決議の取消事由とはならないと主張するので以下この点について判断する。
被告会社が昭和三四年一〇月二二日資本金五〇〇〇万円をもつて設立され、以来本件株主総会まで一度も株式配当がなかつたこと、昭和四〇年一一月には被告会社の定時株主総会は招集されなかつたことは当事者間に争いはない。
成立につき争いのない甲第一、第二、第七、第九号証、乙第五、第六号証被告代表者本人尋問の結果から成立の認められる乙第三号証同第四号証の一から七、同第七号証、証人新谷国太郎、同渡辺時治(但し後記認定に反する部分を除く。)の各証言、被告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。
被告会社は創立以来製品サーモ・エレメントの性能が期待された程よくないこと、値段が高いことなどが原因で売行は極めて悪く、反面経費の方は工場設備投資、技術者に対する人件費、研究費は厖大を極め、そのため被告会社の負債は累積し、昭和三五年九月三〇日現在、金二、一一四、三五六円、昭和三六年九月三〇日現在金一六、〇二一、九七〇円、昭和三七年九月三〇日現在、金三二、二八四、〇五九円、昭和三八年九月三〇日現在金九〇、〇一四、二六三円と増加の一途を辿るのみで、昭和四〇年九月三〇日現在では、金一一二、一〇四、九七二円(当期のみの欠損金二二、〇九〇、七〇九円)に達した。これに対して右昭和四〇年九月三〇日現在の資産としては流動資産金四、六三七、一二一円、固定資産金五四、九九〇、二一二円合計金五九、六二七、三三三円という状態であつた。このような状態にありながらも被告会社は創立以来昭和三九年度まで毎年一一月に定時株主総会を開きその都度株主に被告会社の経営状態を報告し、また、各株主に決算書を送付して会社の経営状態を知らしめて来た。
その間資金面においては、株式の払込み金は設立後一年余でなくなつてしまつたので、被告会社の社長加賀谷力司が個人で総額一億二千万円の資本を投入し製品サーモ・エレメントの技術開発等に尽力し、被告会社の経営を維持してきたのであるが、日本光学との技術提携も失敗に終り、昭和四〇年度に至つては、被告会社は技術員一名、他の従業員二、三名を残すのみとなり、右加賀谷力司個人の財力も限界にきて、昭和四〇年度の決算書作成の経費、事務処理にも困り、毎年一一月に予定されている定時株主総会も招集できない状態に至つた。
そこで被告会社は解散が必至となり、そのための臨時株主総会を招集する目的で前叙本件取締役会を開催したところ、前叙の如く本件株主総会を招集することが可決され、このことは右取締役会に欠席した三浦盛典外二名の取締役にも事後承諾を得た。
右取締役会においては、臨時株主総会招集の時期について、会社解散というよくないことは年内に一掃したいという気持と被告会社の株主で一番距離的に遠い大分県在住の株主が出席する場合の便を考慮し、しかも株主総会招集通知は会日の二週間前に発しなければならない関係上、その期間を余り短縮することもできないとして一二月二九日より他に日がないことから、右期日に本件株主総会を開催することを決議した。しかして、本件株主総会において前叙の如き多数をもつて本件株主総会決議がなされたのであるが、その後本件株主総会決議の効力を争う株主は原告らよりほかになく、原告らの持株数は原告西村が一五〇〇株、原告三橋が一〇〇株である。他に右認定を左右する証拠はない。
以上の事実によれば、被告会社の取締役総数七名中本件取締役会決議を事後承諾した三名を加えると、実質的には五名が右取締役会決議に賛成であることになるのであるから、再度取締役会を開いて会社解散のための臨時株主総会招集の審義をしても可決されることは明らかであり、かかる事情を考慮すると前叙本件取締役会決議の瑕疵を事由として本件株主総会決議を取消すことは不適当である。また、前叙二、(二)(2)(3)および三、各認定事実のうち特に本件株主総会招集通知に関する瑕疵が法定期間に三日欠けるというものであること、乙第八号証(株主名簿)によつて認められる各株主の住所の分布状態及び持株数、本件株主総会の議決に参加した株主の出席状況ならびに被告会社の経営状態からみて解散は避け難い状況に立ち至つており、各株主も昭和三九年度までの毎年の決算報告により右状況を了知し、会社解散案件の上程は原告主張の如く不意打のものとはいいがたいこと等を総合すると、前叙本件株主総会招集通知に関する瑕疵は軽微な手続上の瑕疵であつて、本件株主総会決議に影響を及ぼすほどのものではないものと認められる。従つて、原告の本訴請求は結局において棄却を免れない。
(結論)
六、以上各説示により原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。